やっと観る気になった作品ですが、観てみるとかなり面白い!
私は宗教にはあまり興味が無いので、話の内容が面白かった訳ではなく、作品に散りばめすぎだろ!と突っ込みたくなるほどの伏線の数々。
本作品は冒頭から伏線だらけなので、まずそれらが何処に潜んでいるか把握するのに3回観直しました。(目を離した隙にやられちゃうので気をつけてください)
この記事では、「ミッドサマー」についての考察や解読をまとめているので、最後までネタバレしています。
まだ作品をご覧になられてない方は、ご注意ください。
冒頭のタペストリー
オープニングに美しい音楽と共に登場する絵(タペストリー)では、映画のストーリーが左から5分割で示されています。
①冬の夜(1番左)
上部にあるドクロの口から雪を降らし、ピンク色の紐で繋がれた4人の人物が描かれ、右下に立つ白骨が紐を断ち切っている絵です。
中央にいるピンク色の服を着た人物がダニー、その周りで漂っている人がテリーと両親と考えていきます。
4人が繋がれているピンク色の紐はそれぞれの人物の頭部や腹部、下腹部を貫いていて、これは家族の繋がりを示しているかと。
しかし、白骨が剣でダニーに繋がる紐を断ち切っており、他の家族の紐はそのままなので、家族は白骨と共に上部のドクロ=死神の元へ。
また、ドクロの左右には2羽の黒い鳥が描かれており、北欧神話の最高神オーディンに仕える「思考」を意味するフギンと「記憶」を意味するムニンを意味しているのでは?
フギンとムニンは世界中を飛び回り、オーディンに様々な情報を伝えるので、ダニーの身に起こったことを偵察し、オーディンに伝えたと読み取れます。
この絵については、ダニーがひどいトラウマを受けて悲しみの中にあることが、ペレに知らされた。あるいは、ペレを経てホルガの人々に伝わったことを意味しているのかもしれません。
②悲嘆に暮れるダニー、慰めるクリスチャン、それを木の上から見下ろすペレの絵
作中でペレはダニーを何度か口説いていおり、ダニーに絵を送っていた事から、木の上にいるペレはダニーの絵を描いていると思います。
③ ペレに連れられてホルガに向かうダニー達
先頭で笛を吹いているペレに続き、マーク、ジョシュ、クリスチャン、ダニーの4人が森を歩いています。
「ハーメルンの笛吹き男」のようですよね。
「ハメルーンの笛吹き男」とは、派手な服を着た笛吹き男がハーメルンの130人の子供たちを笛の音色によってどこかへ連れていき、子供たちは誰一人帰ってきません。
これがダニー達にも当てはまるとするなら、ペレによってホルガに連れて行かれたダニーたち4人は、誰一人アメリカに帰ることはできません。
道化師の格好をしているのはマーク、バカっぽい感じがそうかと。
本を持っているジョシュは、勤勉であるということでしょうか。
手ぶらのクリスチャンは何の目的も持たず、周囲に流されています。
一行のいちばん後ろを、気が進まなそうについていくのがダニー、ちょっと引き気味ですよね。
森の中から太陽の門へ、花の道が続いており、作中の様々なところで、花の道が人々を運命へと導いていました。
④ホルガ到着
ペレと4人は太陽の門をくぐり、村人たちが出迎えています。
また、上部には崖から落ちる二人の老人が描かれています。
となると、空に昇る椅子はメイクイーンの玉座ですね。
⑤ 太陽の真下で、メイポール・ダンスを踊る女性達
ホルガの夏至祭は太陽に感謝を捧げる祭りであり、気持ち悪い笑みを浮かべる太陽はホルガの人々の崇める神の象徴です。
その下でメイポールの周りを、女性達が白骨と手を繋ぎ輪になって踊っています。
ポールのことを作中でメイポールと呼んでいますが、これは本来はヨーロッパの五月祭で使われるポールの呼び名です。
スウェーデン語ではMidsommerstångで、夏至柱とも呼び、その形は男性器のシンボルとされているので、男性器の周りを若い乙女たちが踊り回ってる事になります。
絵の全体で、ダニー家族の一家心中という死に囚われた「冬」の季節を乗り越え、ホルガのコミュニティに迎え入れられた太陽と再生を意味する喜びの「夏」の季節を迎えるという、ダニーの精神的旅路が描かれています。
ダニーの家族
妹からの不気味な連絡に不安になったダニーが、留守番電話にメッセージを残すシーン。
ダニーの両親の枕元にはダニーの写真が飾られていますが、一緒に飾られた花によって花の冠をかぶっているようにも見えます。
ダニーの部屋に飾られた熊の絵
家族を失った哀しみで、ダニーが放心状態でベッドに横たわるシーン。
彼女のベッドには、スウェーデンの画家ヨン・パウエルの作品「哀れなクマさん(Poor Little Bear)」という作品が飾られています。
可愛らしい絵ですが、メイクイーンとなるダニーと、熊の皮を着せられるクリスチャンの運命を暗示したものと考えれます。
絶対熊関係あるやん…って感じるほど熊が作中出てきましたよね。
壁画にも焼かれる熊が描かれていますし、実際に檻に入った熊も用意されています。
熊はフィンランドの国獣でもあり、映画の中でも話に出てきたヴァイキングは熊を崇拝していましたし、戦士たちは熊の皮を着て戦ったとも言われていましたので、熊は高貴な生き物と考えられます。
しかし、その熊を生贄に着せていました。
フィンランドでは実際に熊祭が行われていたとされており、飼育した小熊の魂を神々に返したとされています。
もしかすると、花婿となったクリスチャンに種を残してくれてありがとうという意味を込めて熊と共に神のもとへ返したのでしょうか。
9の数字について
作品出てくる数字には、“9”が入っています。
- 90年ごとに行われる祝祭
- 9日間行われる祝祭
- 9人の生贄
- 72歳(9の倍数、7+2=9)になると、アッテストゥパンの儀式に参加
そして、映画のタイトル「Midsommar(ミッドサマー)」も9つのアルファベットから出来ています。
このことから、ホルガの人々の信仰の中心になってくるのが、“9”という数字が意味あるものとされている北欧神話と考えられます。
世界は巨大なトネリコの木である世界樹ユグドラシルの中にあるとされており、ユグドラシルには9つの世界があります。
神話の中で、オーディンは世界樹のトネリコに自らを9日間吊るし、腹に槍を突き刺して、自分自身を生贄とすることで、知恵を授かりルーン文字を獲得します。
また、古代スウェーデンの王は伝統的に、9年ごとにウプサラの神殿に生贄を捧げる儀式を行ったとされており、その生贄の人数が9人。
分けられる4つの季節
小屋に迎えられたダニー達は、ペレから「人生は一つの季節である」と教えられます。
- 0歳〜18歳(春)子供の季節
- 18歳〜36歳(夏)巡礼の旅をする季節
- 36歳〜54歳(秋)労働の季節
- 54歳〜72歳(冬)人々の師となる季節
この区切り方も、9の倍数ですね。
ダニーはおそらく20代半ばなので、18歳〜36歳(夏)の中間点であり、まさに“ミッドサマー”ですよね。
そして、「72歳になったらどうするの?」と聞いたダニーに、ペレは「首切りポーズ」で答えます。
冗談と受け取ったダニーでしたが、そのままの意味でしたね。
宿舎の壁画
ダニー達が泊まる宿舎は隅から隅まで壁画で飾られており、ただの飾りではなく、ほとんど伏線でした。
血のワシ(Blood Eagle)の絵
血のワシとは、ヴァイキングが行っていた儀式的な刑の一つだと言われ、「刃物で犠牲者の肋骨を脊椎から切り離し、生きたまま肺を体外に引きずりだして翼のように広げる」恐ろしい方法です。
そして、生贄の一人となったサイモンの末路です。
性の儀式の絵
そしてこれは、クリスチャンとマヤ。
ちなみにこの絵は、クリスチャンの寝床のところに置かれていました。
首を吊った絵
9が関連する神話の中で、オーディンは世界樹のトネリコに自らを9日間吊るし、腹に槍を突き刺して、自分自身を生贄とすることで、知恵を授かりルーン文字を獲得します。
下の壁画はそれを描いています。
上下にある♢に☓をつけたような符号は、神槍グングニルを表する符号で、最後に生贄にとして捧げられるシーンの聖殿の中にもこの符号が大きく記されています。
このことから、9人の生贄達は最高神オーディンへ捧げられると思われます。
アッテストゥパン
儀式の前に、全員で食事をとります。
食卓は「ᛟ」、ルーン文字のoの形になっており、アース神族を表すルーン文字で、óss。
アース神族は最高神オーディンを長とする神々のことです。
厳かな雰囲気の朝食のあと、イルヴァとダンという老人が椅子ごと担ぎ上げられ、断崖絶壁の上へと運ばれます。
そこにはルーン文字が3列3行に刻まれた石碑があり(3×3=9で、ここにも9の数字が登場する)、老人たちは手の平をナイフで切り、石碑に血を擦り付け手形を残します。
アッテストゥパンで飛び降りた後は、焼かれて灰になり、先祖の木に撒かれることになるので、この石碑が彼らの墓であると思います。
刻まれているルーン文字は6種類。
- 「ᚷ」(g:ギューフ:ギフト)=贈り物、愛情
- 「ᚱ」(r:ラド)=旅、移動、乗り物
- 「ᛏ」(t:テュール)=勝利、男性
テュールは北欧神話の神でオーディンの息子、戦争の神 - 「ᚾ」(n:ニード:need)=必要、欠乏
- 「ᛈ」(p:ペオース)=意外性、無限の可能性
- 「ᛣ」(k:カルク)=元々の意味は防御、保護
文字が逆さになっているため、意味が逆
このことから、「神の“加護が弱くなりつつある”、神に“贈り物”を捧げる“必要”がある」という意味が石碑には書かれているのではないでしょうか。
「アッテストゥパン」(Ättestupa)はスウェーデン語で「氏族の絶壁」を意味し、ミッドサマーで表現されるアッテストゥパンは、死者が新しい命として生き返る、ホルガの再編成のための儀式です。
なので、ホルガの人々にとって儀式で失敗した者は「可哀想」だから、ハンマーで殴った事も、生きてしまっている者が先祖の仲間入りを果たすための手助けという事ですね。
マヤが登場した小屋の扉のルーン文字
マヤ初登場のシーンで彼女が開ける小屋の扉に登場したルーン文字は3種類。
- 「ᛏ」(t:ティワズ)=勝利、男性
- 「ᛣ」(k:カルク)=元々の意味は防御、保護
- 「ᛚ」(l:ラグズ) = 女性、内面
この「ᛏ」と「ᛣ」の2つの文字は行為の直前にクリスチャンが着替えた服にも刺繍されていました。
これは、「ᛏ」=勝利、男性から考えると、この後の行為をその気にさせるためのものかと思います。
それに合わせて「ᛚ」= 女性、内面の文字なので、扉にルーン文字が登場していた時点で、マヤがクリスチャンと行為をする事は決まっていたのでしょうね。
マークの皮を着た男
ミートパイが出たディナーの途中、インゲがマークをどこかへ連れ出しました。
その夜、皆が寝静まった後にジョシュが宿舎を抜け出しルビ・ラダーの書を撮影します。
ルビ・ラダーを盗撮していると、背後から物音が聞こえマークの皮を着た人物が現れます。
マークの中身はウルフです。アリ・アスター監督がインタビューでマークの皮をかぶっている男の正体を答えていました。
監督のアリ・アスターは米掲示板サイトのRedditでファンとのQAに参加し、この恐ろしいシーンでマークの人面皮を被っていた犯人を告白。
「マークの皮をかぶってジョシュを殺したのは誰?」とファンに聞かれたアスター監督の答えは…。「マークの皮をかぶっている男はウルフです」。引用:FRONTROW
そのあとに誰かがジョシュを襲います。
マークの皮をかぶっている男はウルフですが、ジョシュを襲ったのはウルフではない別の人物と思います。
ジョシュが背後の足音に気付き振り返るとき、一瞬だけ誰かが映っています。
誰か分からない程一瞬ですが、ジョシュがマークに気を取られている隙に、その誰かがジョシュを襲ったのではないかと思います。
マークが連れ去られたその後の描写はなかったものの「愚か者の皮剥」(冒頭のタペストリーでも道化師の格好をしていた、愚か者(Fool)がマーク)の通り、神聖な木に粗相をした「愚か者」のマークの皮が剥がされたということですね。
ネクロパンツ
17世紀のアイスランドの魔術師は、人間男性の皮膚で作ったズボンを履いており、これは富をもたらすと言われていました。
伝説によるとネクロパンツが作られた当時は、伝統的な魔術アイテムであり、皮膚の提供者が生きているうちに交渉し「没後、下半身の皮でズボンを作っていい」という許可を得て契約を結び、作製されていたいるそうです。
アイスランドのホルマビクにある魔術博物館には、完全な形で残った唯一のネクロパンツが展示されていますので、気になる方は検索してみてはいかがでしょうか。
メイポール・ダンスの由来
メイポールは実際に存在しており、スウェーデンの最も重要な年間行事の一つである、お祝いのミッドサマーに欠かせないのがメイポールです。
スウェーデンではマイストング(Majstången)やミッドソンマルストング(midsommarstång)と呼ばれています。
スウェーデン語で5月を「Maj(マイ)」と呼ぶそうですが、マイストングの「マイ」は5月という意味ではなく、白樺の葉で飾ったものという意味で、その名の通り白樺の葉と季節の野花で飾るのがスウェーデンのメイポール。
スウェーデンで行われるミッドサマーでは、その地方の民族衣装を来た人々が集まり、スウェーデンの伝統楽器などを演奏し、生演奏でにぎわう中、メイポールの周りを子どもから大人まで老若男女、多くの人々で伝統のフォークダンスを踊るそうです。
なので、本作品と実際にあるメイポールの扱い方はほぼ同じ。
映画「ミッドサマー」でのメイポール・ダンスの由来としては、「昔、暗闇がホルガの若者を騙して、ダンスへと誘惑しました。踊り始めると、止まることはできない。闇に打ち勝ち人生を肯定するために、私たちは疲れ果てて倒れるまで踊ります。最後に立っていたものが、冠を頂きます」と伝説が語られます。
ちなみに、映画のホルガは創作の村ですが、スウェーデンにホルガという名前の村は実際にあります。
そのスウェーデンに実在するホルガの村では『ホルガローテン Hårgalåten』という、「ホルガダンセン」の伝説に基づいた、フィドル(バイオリン)で演奏されるスウェーデンの民謡・伝承曲があります。
「ホルガダンセン」の伝説
ホルガ村の若者たちが集まってダンスを楽しんでいると、突然ダンスの途中で音楽が止まり、大きな黒い帽子を被り、目には燃える炎をまとう、フィドルを持つ怪しい男が暗闇から現れた。
男はフィドルを構えると、今まで誰も聴いたことがないような妖しげな旋律を奏で始める。
若者たちはすぐにメロディを気に入りダンスを再開したが、踊りだした後で異変に気づくが、ダンスを止めようと思っても止められない。
怪しいフィドル奏者が音楽を止めることは無く、若者たちは意思を奪われた人形のように踊り続け、フィドル奏者が演奏を続けながら移動を始めると、若者たちも踊り続けながら一列になってその後をついて消え去った。
踊りに参加せず隠れていた一人の少女だけが、男の正体が悪魔であることに気づいていたため助かった。
よく見ると男の足はヤギのヒヅメになっており、それはヤギの体をもった(キリスト教における)バフォメットだったのだ。
このホルガダンセンの伝説を元にして作られた曲が「ホルガローテン(Hårgalåten)」で、フィドルで演奏されるポピュラーなスウェーデン民謡になっており、夏至祭のメイポールダンスで非常によく演奏されているようです。
そして、メイポールを覆う緑の葉や花や背景の森など、周りの植物が生きているように動き始めるので、このシーンは画面の隅々まで注意深く観てみてください。
メイポール・ダンス勝利後の祝福
何度も止まっては踊り、繰り返すうちに脱落者が出始めますが、ダニーはカリンに導かれて踊り続け、気がつくとダニーは最後の一人になっており、イルマがメイクイーンが決まったことを宣言してダニーの頭には花輪の冠が被せられます。
一斉に両手を上げてヒラヒラ〜と振りながら、脱落した女性や見ていた男性も皆ダニーの元へ駆け寄りダニーを祝福する中、ペレがどさくさに紛れてダニーの唇にキスをします。
これについて誰も何も言わないのは、ホルガではダニーとペレが一緒になることが決まっていたのかもしれませんね。
多くの人々がダニーにキスしたりハグしたりしますが、その中にはダニーの両親が紛れ込んでいます。
アップで映る薄毛で小太りの中年男性と、その左後ろに映る冠をしていない女性です。
また、ダニーが村人たちに担ぎ上げられて移動するシーンの背景の森には、口にガスチューブをくわえたかのような人間の顔が浮かび上がっており、これは妹のテリーだと思います。
このころから段々とダニーが植物に取り込まれていきます。
この世に居ない家族と笑顔で迎えてくれる仲間たち、ダニーの求めているものが全て揃うホルガに、ダニーの心も開きつつある事が表現されているのではないでしょうか。
また、メイポールダンスの時のダニーの衣装には、胸の辺りに「ᚱ」と 「ᛞ」のルーンが刺繍されています。
- 「ᛞ」(Daeg、ダエグ) 終わりと始まりを意味する
- 「ᚱ」(rad、ラド) 旅を見守る力があり、「車輪」の象徴
この2つと合わせると、ダニーは、「旅を通して、真新しい自分になる」という未来が約束されていたと考えられます。
そして、メイクイーンとなったダニーが上座に座り、村人全員で食卓を囲むと、ダニーの元へ塩漬けのニシンが運ばれてきて「尻尾からまるごと食べるように」と言われるが、飲み込めず吐き出してしまいます。
それを見た村人たちは一斉に笑いだしますが、今までダニーがパニックを起こすきっかけになっていた“嘲笑”ではなく、親愛の情を込めて笑っているので、この時点ではもうダニーの心はホルガにあると考えられますね。
13人の女性達
ダニーが祝福を与える儀式でいなくなった後、少女が籠の花を撒いて歩き、寺院とディナーテーブルの間に花の道を作りクリスチャンを寺院へ導きます。
そして、寺院の中でクリスチャンは花のベッドの上に横たわるマヤと対面。
その後ろには、12人の女性たちが待ち構えており、マヤを入れると女性は合計13人。
ダニーが祝福の儀のために乗った馬車を先導する女性たちも13人でした。
これまで「ミッドサマー」のなかでは「9」という数字が至る所にありましたが、突如「13」の数字が現れます。
- キリストを裏切った弟子のユダが13番目の弟子
- イエスが刑されたのが13日の金曜日
このことから、「13」はキリスト教では忌むべき数字だと思われます。
キリスト教を信仰するアメリカとイギリスからやってきたダニーたちにとって、ホルガの信仰は“悪魔教のような信仰”であることを、「13」で表しているのではないでしょうか。
それにしてもマヤが無事出産した場合、ダニーからすれば彼氏クリスチャンの浮気相手の子供が生まれてくるわけですよ。
後日談が気になります…
泣き叫ぶダニー
祝福の儀から戻ってきたダニーはシヴの家へと指示されますが、寺院から聞こえてくる女性達の声に気付き見に行きます。
もちろんその中では、クリスチャンとマヤが性の儀式の真っ最中なので、それを見たダニーはショックを受け宿舎の自分のベッドに駆け込みます。
追いかけてきた女性達はパニック発作で過呼吸になるダニーに付き添い、感情が爆発したダニーは大声をあげて泣き始め、取り囲む女性達もダニーと同じように感情を爆発させて全員大声で泣き始めます。
彼女達に泣かれているうちに、ダニーの感情もやがて落ち着いていきます。
「“嫌な事”を誰かに話す事で“感情を共有”し、一人で抱え込んでいた辛さを分かち合ってもらい楽になっていく」これは、映画に限らず女性はよく理解出来るのではないでしょうか。
ダニーもこれに当てはまり、ダニーの苦しみや悲しみを共有して、ホルガの女性達も全く同じように苦しみ、悲しむことで、ダニーを癒しているのだと思います。
「ミッドサマー」はアリ・アスター監督の失恋体験がきっかけで描かれており、本作品の事を「幻想的な関係性のドラマ、あるいは失恋ムービー」と紹介していました。
また、以下のようにも語っています。
この映画にはダニーのドラマがある。彼女の心の旅路を、映画は辿っているんだ。描かれていることの全ては、彼女の内部で起こっていると言ってもいい。家族を失ったダニーの新たな家族の模索こそが、本作の究極的な要素だ
引用:MOVIEWALKER
このことから、ダニーの号泣シーンには、ダニーの心が完全にホルガへ向いたことを意味するのではないかと思います。
- 自分だけ置き去りにした家族
- 心の支えになっていた恋人は浮気
この2点だけでも、自分を受け入れてくれるホルガに心を開く、充分なきっかけかと思いました。
ジョシュとサイモン
クリスチャンとマヤの性の儀式が終わると直ぐにクリスチャンは我に返り、慌てて寺院を飛び出します。
この時、役目を終えたクリスチャンの事はみんな放ったらかしでしたね(笑)
飛び出したクリスチャンは宿舎に向かいますが、ダニーと女性達の声が聞こえて退避し、次の逃げ込み先を探す最中、花壇らしき場所から足が生えていることに気付きます。
見えているのは片足だけですが、足の色からしてジョシュだと判別できます。
足の裏には「ᛗ」(マンナズ、*Mannaz)-人、人間という意味のルーン文字が書かれています。
植物を植えている場所に“人間”と書いた人の足を埋めています。
また、“互いに尊重”という意味もあるようです。
「お互いの文化を尊重すべき」という意味でしょうか…ホルガにとって禁忌であるルビ・ラダーを盗撮しようとしたことを咎めているのかもしれませんね。
クリスチャンはこの足に気付くだけで調べず、近くの鶏小屋に逃げ込みますが、そこで翼を広げた鳥のように吊り下げられたサイモンを発見。
宿舎の壁画の考察で軽く触れましたが、これは「血のワシ」と呼ばれ、かつての北欧文学にも綴られてる、ヴァイキングが行っていた儀式です。
- 犠牲者をうつ伏せに寝かせる
- 刃物で肋骨を脊椎から切り離す
- 生きたまま肺を体外に引きずり出す
- 肺を翼のように広げる
「生きたまま肺を体外に引きずりだす」の通り発見した時のサイモンの肺は脈打っていましたので、この時点でサイモンはまだ生きていたということですね。
サイモンは最初に行方不明になった人物でしたが、何か悪い事をしたか…?何もしてないように思いますが…
強いて言えばアッテストゥパンの儀式の最中に、大声をあげ黙って見ている人々を非難した事だと思います。
ホルガの人々から見れば、新しい命として生き返る再編成のための儀式である“アッテストゥパン”を非難しただけでも、この上なく重大な罪だった可能性がありますね。
メイクイーンの花のドレス
「あなたは話せない。動くこともできない」というセリフから映し出されるクリスチャンは車椅子に載せられています。
クリスチャンはサイモンを見たあとで薬を吹きかけられ全身麻痺状態にされてしまいました。
でも意識はある、この作品の結末としては最悪の状況ですよね…
そして、その後ろのステージには花のドレスを着てほぼオブジェ化した、ダニーの姿があります。
ちなみに、「ミッドサマー」で使われたフローレンス・ピュー演じるダニーが着ている花のドレスが6万5000ドル(約700万円)で落札されました。
気鋭の映画スタジオ・A24のチャリティオークションで、「ミッドサマー」でフローレンス・ピューが着用した花のドレスが6万5000ドル(約700万円)で落札されたことがわかった。加熱した落札競争を制したのは、12月14日に米ロサンゼルスでオープン予定のアカデミー映画博物館。5月21日に終了した同オークション全体の収益は、36万2875ドル(約3900万円)となった。
引用:映画.com
また、メイクイーンのドレスに使用する花は慎重に選ばれたらしく、色も重要で、スウェーデンの色である青と黄色が入れられています。
- わすれな草(追悼、誠実さ)
- スイートピー(門出)
- キンポウゲ(幸福)
- ヤグルマギク(信頼)
- ニゲラ・ペルシャンジュエル(茂みのなかの悪魔)
などを使用し、ドレスに使われた花は約10,000個、重さは約15キロもあるんだとか。
ドレスにしては重すぎますが、ストーリー中でダニーが経験してきた様々な事を考えると、実際に身体的に身動きが取れない状況を現しているようでもありますね。
また、巨大な花の冠は9種類の特別な花とハーブでできており、ここにも“9”が隠されていました。
9人の生贄
「我らの浄化の神の日に、我が大切な太陽に特別な感謝を捧げる。父なる神への捧げ物として、我らは今日9人の生命を捧げよう。」
「ホルガは奪い、ホルガは与える。生贄となる新たな血のために、我らは我々自身も捧げよう。つまり、4人の新たな血、4人のホルガ人、そして女王によって選ばれるもう一人。全部で9人、偉大なるサイクルに生まれ変わるために」
シヴが儀式の内容として、神に捧げられる生贄は4人の「新たな血」すなわち外部者と、4人のホルガ人、そしてもう一人はメイクイーンによって選ばれる計9名の命と宣言しています。
外部者
- マーク(愚か者の皮剥)
- ジョシュ(寺院で襲われる)
- サイモン(血のワシ)
- コニー(川の儀式※儀式はディレクターズカットで確認できる)
ホルガ
- イルヴァ(アッテストゥパン)
- ダン(アッテストゥパン)
- イングマール(ボランティア)
- ウルフ(ボランティア)
メイクイーンによる選出
クリスチャン(ダニーが選んだ)
マークは皮剥ぎされているので、中には藁が詰め込まれており、愚か者の証として道化師の格好をしており、ジョシュも土だらけ。
ホルガからの生贄のうち2人は、72歳になったことで必然的に行われる儀式のアッテストゥパンに参加した2人が加算されています。
私個人の意見ですけど、これはせこくないですか?(笑)
大祭関係なく、72歳になったからアッテストゥパンを行わないといけない訳で…使い回しじゃない?と思ってしまいました。
この2人はもう既に灰になっているので、案山子のような見た目で生贄として参加します。
ボランティアの1人であるイングマールは、サイモンとコニーを連れてきた人物です。
大祭のために外部の人間を連れてきたのはペレとイングマールだけで、2人とも女性を1人ずつ連れて来ました。
これは、2人のどちらかが外部から連れてきた女性を自分の妻にし、できなかった方が生贄になるという決まりがあったのかもしれません。
もしくは、どちらがメイクイーンを出すか?
それとも、ペレの方が多く生贄を連れてきたからか…。
ホルガの生贄はボランティアで自発的なものとされていますので、ただ役に立ちたかっただけかも知れませんが。
そして、9人目は伝統に従い「新たな血」と「ホルガの血」のどちらかをメイクイーンが選びます。
よって選択肢は、クリスチャンとホルガ人の抽選で決められた男の2人。(いやボランティアじゃないんかい!)
結果としてクリスチャンが選ばれますが、浮気したとはいえ4年と2週間も長い期間付き合っていた彼氏に情の欠片もないのか?と思いました。
しかし、ダニーにとってクリスチャンは自分の家族が亡くなった時も寄り添ってくれず、挙句浮気した彼氏。
この時点でホルガにいる人々は、クリスチャンを除く全ての人がダニーの見方であり家族なので、スパッと自分が求めている方向へ決断をしたのかもしれませんね。
炎の儀式
作品の最初からずっと目立ってはいましたが、その正体は謎だった黄色い三角の家が、生贄の儀式の舞台です。
宿舎の壁画の考察で触れましたが、家の中にはルーン文字があり、この♢に☓をつけたような符号は、神槍グングニルを表する符号で、9人の生贄達は最高神オーディンへ捧げられる事が分かります。
家の中では、他の生贄が置かれたと同じようにウルフとイングマールも干し草の上に座り、そして8人の生贄に囲まれた中央に、クマと一体化したクリスチャンが置かれます。
クリスチャンはこの時点でも、しゃべることも動くこともできず、意識だけははっきりとしています。
そこに、スダレで隠した神官が入ってきて、クマと一体化したクリスチャンに語りかけます。
「強く恐ろしい獣よ。お前とともに、我々は一掃する、我々のもっとも神聖でない影響を。お前が自分自身の邪悪さについて顧みるだろう深きくぼみに、お前を追放する」
この意味は、生死含む全てをホルガに委ねさせ「ホルガというコミュニティに疑問を抱かせない」ということでしょうか。
そして、「恐れも痛みも感じなくなる」イチイの飲み物を飲んで痛み止めの効果を信じていたウルフとイングマールがあまりの痛みに悲鳴を上げるシーンでは、ウルフ達が悲鳴をあげることにより、ダニーの時と同じようにホルガの人々が共に悲鳴をあげて感情を共有します。
この儀式でさらにホルガが1つになる、生贄の痛みを皆で共有することに意味があるのかもしれませんね。
もしくは、ウルフは木の管理に失敗、イングマールは婚約済みのカップルを連れてきて、儀式の説明不足により神聖な儀式を批判された罪とも考えられますね。
ダニーの笑顔
私は以前「ミッドサマー」の紹介記事に、「ダニーの気持ちに寄り添いながら物語を観てみると、天涯孤独で恋人や友人からも冷たくされている若い女の子が異文化に触れ、迎えられ必要とされた物語はハッピーエンドとしか言えません。」と綴りました。
そう思ったのが、最後のダニーの笑顔です。
また、アリ・アスター監督は作品について以下のように答えています。
この映画にはダニーのドラマがある。彼女の心の旅路を、映画は辿っているんだ。描かれていることの全ては、彼女の内部で起こっていると言ってもいい。家族を失ったダニーの新たな家族の模索こそが、本作の究極的な要素だ
引用:MOVIEWALKER
このことから、「ミッドサマー」のメインテーマは“新たな家族=心安らげる場所”を探すことだと考えられます。
また、脚本の最後ではこう記されています。
「彼女は完全に我を失った。しかしやっと自由になれたのだ。それはおぞましく、また美しくもあるのだ」
他の方の考察を拝見すると、「クリスチャンへの復讐の笑み」「ざまあみろの笑顔」という意見を多くみかけましたが、私はダニーがその域すら通り越しクリスチャンの事など眼中に無い、自分の幸せを掴んだ時の笑みのように見えました。
家族は心中、さらに慰めてくれない彼氏の浮気を目にしたダニーの精神状態は正常でないはずなので「ざまあみろ」なんて考える程、余裕は残っていないように思います。
そして、ダニーの心は既にホルガにあるのですから、“復讐心”というよりは“ホルガへの貢献=好意”の気持ちかと。
なので、新たな家族を手に入れホルガへの貢献も果たした“満足の笑み”ではないでしょうか。
鮮やかになる色
これは、一度見たときには気付きませんでしたが、ラストに近づくにつれホルガが色鮮やかになっています。
初めにダニー立ちを迎えたホルガの人たちは、白を中心として、青と、赤を少しだけ使った衣装でした。
ラストに近づくにつれ衣装と食卓共に華やかになってゆき、特に分かりやすいのは「性の儀式」を終えた後のマヤの衣装が、口紅も真っ赤に塗り、赤を中心とした衣装になっている事です。
このマヤの満足気な顔…、もうクリスチャンは用無しなんだと悟りました(笑)
最後はダニーのドレスも込で、全ての色が揃い画面が色鮮やかに。
衣装に刺繍されているルーン文字の色すらも、どんどん赤くなっていきます。
“色が鮮やかになった”というより、“鮮やかになっていく狂気”の方がしっくりきますね。
「ミッドサマー」の中でいう“ラスト”とは“大祭の最後”ですので、ラストに近付くほど生贄は増えていますよね…
“生贄が増える=血の流れる量が増える”から、赤の主張が強くなっていったのでしょうか?
衣装からも狂気を表現してくる細かい脚本には流石としか言いようがありません。
ルビン
寺院に保管されているホルガの聖書「ルビ・ラダー」を書くのはルベンという村にいる知恵遅れの奇形児で、ルビンが「ルビ・ラダー」を書き、長老たちがそれを解読していきます。
そして、ホルガでは血縁の近すぎる者同士での行為によって意図的に障害児を作り、定期的にルビンを供給していると説明されていました。
アリ・アスター監督はルビンについて以下のように答えています。
ルビンはとても重要です。彼はキャラクターというより、シンボルなんです。この作品には込められている政治的なメッセージをハッキリと表現しています。スウェーデン社会は歴史的に、とても閉鎖的です。これが何を意味するか分かりますか?今スウェーデンで起きていることは、第二次世界大戦で起きたことと同じです。論争をしたいわけじゃないので、詳しくは説明しません。でもルビンは、この映画の政治的メッセージをハッキリと表現しているんです。
引用:Forbes
ルビンをかなり重要視していますが、私の記憶ではルビンの登場シーンは3回。
- アッテストゥパンの儀式の開始前
- 寺院でジョシュがルビ・ラダーの解説を聞いた時
- クリスチャンとマヤの性の儀式
この3回の登場に加え、セリフは無し、誰かがルビンと接触しているような描写もなしです。
しかし彼が重要だということは、ストーリーの中以外にも彼が重要視されるべき存在だということ、これは“何かに向けたメッセージ”ではないかと考えました。
「ミッドサマー」の作中に出てきたホルガ人は白人だけでしたよね。
ホルガには白人だけが暮らし、非白人は討たれ、意図的に血縁の近すぎる者同士での行為を繰り返す…ホルガに受け入れられたダニーも白人ですね。
気になったので、こちらも調べてみるとアリ・アスター監督が答えていました。
──訪れた外者6人のうち、コミュニティに受け入れられるのは2人だけです。共に白人なのは、偶然ですか?
いいえ、偶然ではありません。結局のところ、このコミュニティは優生的であるように描きました。非常に大事な点だったので、気づいてもらえて嬉しいです。でもそれを私から強く指摘することはしたくなく……、もしこの映画に論争を巻き起こすようなところがあったとしても、それは脇に見られるくらいで、ノイズにならないようなものであってほしいと思っていますので。引用:Fan’s Voice
これは、白人至上主義を中心とした、人種差別に対する政治的なメッセージが込められているのかなと思いました。
話はズレますが、ルビン役を任されていたのは物凄くきれいな顔立ちのLevente Puczkó-Smith(レベンテ・プチュコ・スミス)くん。
ミッドサマーにて、近親相姦の末に誕生したルビンを演じたのは、特殊メイクをしたLevente Puczkó-Smithくん pic.twitter.com/Z9lNUUG7YY
— 𝙬𝙖𝙡𝙠 𝙞𝙣 𝙘𝙞𝙣𝙚𝙢𝙖 (@walk_in_cinema) February 28, 2020
素顔がとても綺麗で驚きましたが、それ以上に特殊メイクってすごいですね…(笑)
まとめ
以上、ミッドサマーについての考察を書かせていただきました。
「ヘレディタリー継承」といい、アリ・アスター監督の作品は観た後から作品への興味が湧いてくるものばかりですね。
次回作は4時間にわたる“悪夢のコメディ”になるだろうとアリ・アスター監督本人が明かしており、次の作品が楽しみで仕方ありません。
まだまだ回収しきれていない伏線も多くあると思いますので、まとめ次第更新していきたいと考えております。
長々とお付き合い頂きありがとうございました。